何を期待していいのか全く分からなかったエリトリア遠征。
最初の公式公演は大成功だった!
800席のシネマロマは2階まで立ち見の満席。
ものすごい大反響で、アンコールが終わったあとの、人々のスタンディングオベーションは生涯忘れられない光景だった。
文化スポーツ庁によって組まれたスケジュールにより、朝から二チームに別れて行動した。
音響をはじめとするステージセットチームと、ナショナルミュージアム見学組だ。
マレは大事をとってホテルで待機していた。
昨日よりも体調もずいぶんもどり、腹痛も少ない。
だが腸の動きが非常に鈍いことに変わりはない。
ドクター曰く、ガスも便も完全に出なくなったら腸閉塞だが、今のところその心配はなさそうだ。
------イタリヤ建築のシネマロマ
1937年と1944年に二人の異なるイタリア人建築家によって建てられた映画館(1937年Roberto Cappellano、1944年Bruno Sclafani)が、建国記念ウイークオフィシャルイベントの会場だ。大理石が使われた重厚な作りだ。正面入り口を入るとすぐにカフェになっていて、イタリアSorani社製の35mm映写機が展示されている。壁には、当時上映していたかつ映画ののポスターが並ぶ。
週末ともなると、カフェは夜遅くまで賑わいを見せるという。
我々の公演前も、そして公演後も人々がごった返していた。
------エチオピアよりいいじゃん!
夕方からサウンドチェックを始めた。
ステージセットは思った以上にいい。
後ろのスクリーンは、独立記念の垂れ幕があるため使えず、上手側にある小さなスクリーンを使用することになった。
ステージの上は底が抜けるのかと思われるほど安定していない。
午前10時から音響石井が、食事もとらず、トイレにもいかずに、状態のよくない限られた機材でなんとか本番ができる状態にまで持ち込んでくれたおかげで、ステージ上のモニター環境も国内での公演と同等のレベルまで整っていた。
「じゃあ、リハを始めましょう」
マレの一言で演奏を開始すると、スモークがたかれたり、照明に色がはいったりする。
「え、あるんだ。スモーク!色もある!! エチオピアよりいいじゃん!」
そんな言葉が漏れる。
子供たちが何事かと、面白そうにの覗きにきた。
エチオピアとエリトリアを比較すると、エチオピアの方がはるかに経済発展が著しい。
それでも、エチオピアの首都アディス・アベバの由緒あるナショナルテアトルは老朽化が激しいうえに、付帯設備に関して言えば、日本では使われることはあり得ないほど古いものだった。
我々は、音が出たとき歓声をあげたほどだ。
スモークもなけれは色の入った灯りもない。渡航前から突然の停電に備えるように何度も言われていた。(エチオピアストーリー14参照)
エリトリアは、そんなエチオピアよりもはるかに発展途上にある国だから、エチオピアのシアター環境より悪いと予想していただけに、色がついてスモークがたかれたときの驚きは大きかった。
----------いざ本番!
リハ後は、会場にほど近いホテルに一旦全員徒歩で戻ってから、衣装に着替えて最終アップ。
思ったより時間がない。
7時過ぎ、すっかり日がくれた通りをホテルから劇場に向けて歩いた。
劇場に到着するとバックステージの横にジェネレータが轟音を立てていて石油が臭い。
電気が落ちても大丈夫なようにあらかじめ対応しているのだ。
この点でエチオピアよりも準備がいい。
今日のライブはエリTVという国営放送が生放送する。
ホテルの従業員たちはみなテレビで見ると言って嬉しそうに我々を送り出してくれた。
---------え、反応がない?!
午後7時30分ごろ、
予定よりも少し遅れてライブはスタートした。
司会の男性が話を始めた。
しばらくするといつものSEが流れ始める。
その音を聞きながらVocal以外が所定に位置につく。
そしてオープニングナンバーのCode of the Samuraiの始まりだ。
エリトリア公演のために、Code of the Samuraiの途中にエリトリア国歌をアレンジして組み入れている。
Marre&KumikoそしてMakiの三人は上手の袖で出番を待つ。
Code of the Samuraiのコード進行に合わせて、ドラマチックにエリトリア国家を尺八とサックスが吹き始めた。
「お、始まったぞ」
Marreたちはステージ袖に身を隠しつつ、スピーカーの脇から満員の観客席をのぞいた。
「あれ、反応がないな」
「え、なにこれ、はずした?」
日本人が自国の国歌を演奏するのを聴いて、喜んで拍手や歓声があがることを想定していたのだが・・・。みなキョトンとしている。
-----きたー!
ところが、しばらくすると、突如として大きな歓声がおこった。
ようやく国歌だと気付いたようだ・・・。
まさか、日本人のグループが、侍のナレーションにのせて国家を演奏するとは思っていなかったのかもしれない。
「あれ、これ国歌?似てるな・・・と思っているうちに、あ、国歌だ!」と気づいた流れなのだろう。
「きたきた、喜んでくれてる!」
メンバー全員が「イケる!』と思った瞬間だ。
あとは、もういつもの通りにやればいい。
いよいよ The Code of the Samuraiのエンディングでボーカル三人がステージに登場するとものすごい熱気と盛大な拍手が起こった。
そして二曲目のAll of me。
Code of the SamuraiからAll of me の流れは、HEAVENESE初の海外遠征の時からの定番オープニングだ。
この二曲で観客を総立ちにさせてきた経験から、メンバーの中にも自信がある。
曲の終わりで大歓声が起こった。
人々が、心からHEAVENESEを歓迎し、興奮しているう様子が伝わってくる。
------高所の苦しみ
3曲目にYou are good.
ここまではアメリカツアーで何度も繰り返してきたオーダーだ。
しかし一つ違うことは、エリトリアは高所であるということだ。
空気が薄いからボーカルにとっては、とにかく呼吸がつらい。息をすってもすっても苦しくなる。
アップテンポで、意気が揚がる曲のロングトーンというのが、とにかく苦しくて息が続かない。
KumikoとMakiは、昨日から何蜂蜜だけでエネルギーを補給してきたMarreが倒れないことを祈りつつ、酸素が足りない苦しさを乗り越えて必死でいつものパフォーマンスまで持って行こうと力を込める。
You are goodが一番息が切れる。
ここを乗り切ればあとは何とかなる。
この曲おの途中にエリトリアの国民的人気曲だから絶対にやった方がいいと言われていた「サバ・サビナ」を入れた。
サバ・サビナだとわかった瞬間に人々の熱狂がひときわ大きくなった。
喉をならして、例のアフリカンの喜びを表現する人々もいる。
Kumikoがティグリニャ語で歌い始めると、オーディエンスは驚いたように、互いに顔を見合わせながら喜んでいる。
「おい、日本人が、歌ってるぞー!」という興奮した会話が聞こえてきそうだ。
最前列のティーンエイジャーに見える女の子たちはのけぞりそうなほど驚いていた。
グリーティングでのどーよ、いーよも、大いに盛り上がった。
すでに会場は完全に一つになっていた。
Marreが短く挨拶した。
基本的に英語が通じる。
「日本国を代表して、独立28周年おめでとうございます。お祝いにために、はるばる日本からやってきました」
そういうと、人々の笑顔と歓喜の拍手が会場を包んだ。
------ハメハメハが通じたー
そこから津軽三味線、琴 太鼓トリオと続く。
反応もすこぶる良い。
そして、海外ではどこでウケるパーランクコント。
果たして、ハメハメハは通じるのか。
ママーは、通じるのか。
やってみたら、パーランクは大受け。
ハメハメハーを知っている人もいて、声を上げてくれた。
そのまま Motokiの舞踊。
そのあとIt’s so easy.
エンディングに少しだけ阿波踊り。
思ったほど皆が踊らなかった。
ノリが違いすぎて、踊れないのかもしれない。
------渾身のメッセージ
そのあとにMarreによるメッセージ。
エリトリアに来ることになった駐日大使との関係を紹介し、独立を勝ち取るために戦った人々、今も生きている多くの勇士たちの前で歌えることは光栄なことだと伝えると、うなずきながら、あるいは声を上げながら人々が拍手する。
「私たちが満喫している平和のために、多くの血が流されてきました。それは日本も同じことです。けれども日本では、このように盛大に建国記念日を祝わないのです。これは日本人が忘れてしまっていることです。私たちは、この点をみなさんから教わらなくてはならないと思います」
Marreの言葉に、エリトリアの人々が嬉しそうに呼応する。
この後メッセージは、日本の建国の精神や、和を以て貴しとなすという価値観に及んだ。
九つの民族が融和しているというエリトリアの現実は、まさに日本が古来から大切にしている和の実践であり、根本的な価値を日本とエリトリアは共有している。
我々は兄弟のような存在だと語ると満席の会場が割れんばかりの拍手に包まれた。
そして、独立のために命を捧げた人々に捧げる曲としてSilk Roadを演奏。。
それに続いてLIFTと3N1。
アンコールに、エリトリアのヒット曲シャララ。
これがまた、昭和の歌謡曲のような歌だ。
二番を日本語に訳して歌ったが完全に歌謡曲にしか聞こえない。
エチオピアの音楽もそうだが、エリトリアも音楽的には限りなく日本に似ている。
人々が大合唱でHEAVENESEの演奏に混ざる。
非常に盛り上がった。
メンバーが手を振り、ステージから去っていくとき、会場を埋めた人々は一斉に立ち上がりスタンディングオベーションでHEAVENESEをたたえた。
それは、忘れられない光景だった。
独裁国家、アフリカの北朝鮮と言われている国の人々が熱狂し共に歌い、心を一つにした特別な夜。
文化スポーツ長官とその他の大臣たちも感激している。
長官が興奮して近づいてきてこいう言う。
「素晴らしいプレゼンテーションだった。この国の曲を歌ってくたりして、君たちは、ここに集まった全ての人の心をつかんでいたね。明日、日本のエスティファノスに電話して一部始終を報告するよ」
音楽も、メッセージも彼らの心に触れたようだ。
終演後、国営放送のラジオ取材をうけたが、インタビュアーも興奮していた。
どんなことが起こるのか、全く想像ができなかったアフリカの北朝鮮・・・・。
蓋を開けてみれば、想像していた独裁国家の悲惨とはまるで違う現実と、底抜けに明るい人々の熱狂。
起こったことが現実のことのように思えないほどの大成功だった。
汗が冷えてきて体温が低下してきた時分、めっきり気温が下がったアスマラの街を歩いてホテルまで帰った。
これが一番つらかった。
-----通じたんだ!
ホテルに帰ると従業員たちが大歓迎で迎えてくれた。
みなテレビで見ていたのだ。
素晴らしかった!
音楽もメッセージも私たちの心をうったと、口々に語る。
フロントの女性がEverybody is happyと笑顔で心から語ってくれた。
ああ、通じたんだ!
そんな喜びが内側からこみ上げてきた。
劇場にいた政府関係者や、招待券をもって来場した人々だけでなく、
夜遅くまで働いている普通の人々が、満面の笑顔で「みんな幸せになった」と
言ってくれたことが何よりも嬉しい。
少しはにかむ笑顔がなんとも魅力的で、我々の疲れを癒してくれた。
ただいま・・・
この言葉が自然に溢れる場所。
そう思わせてくれる人々。
心が通じ合った喜びがしみじみと身体中に満ちた。
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